CIPN(化学療法誘発性末梢神経障害)とは?
がん治療に使用される化学療法および他の薬物のいくつかは、手足などに感覚を伝える末梢神経に損傷を与えることがあります。がん治療の化学療法でよく見られる副作用です。患者さんの日々のQOL(Quality of Life;生活の質)に影響を与えるだけでなく、症状が重症な場合は化学療法投薬量の減量や治療中止につながり、がんの転帰に影響し、生命予後に重大な影響を及ぼす可能性があります。CIPNは「抗がん剤による末梢神経障害」とも呼ばれます。大腸がんの治療に用いる抗がん剤オキサリプラチンで見られる末梢神経障害はその副作用の代表的なものです。投与後すぐに表れる急性神経障害の他、用量依存性に症状が現れる慢性神経障害があります。急性神経障害は投薬後数時間以内に生じる手足の痺れ・感覚障害や喉の圧迫感・息苦しさなどがあります。用量依存的に生じる慢性神経障害は、オキサリプラチン治療量を制限・中断したり、日常生活の活動性を制限するほど重度になることがあります。これらの神経障害の発症機序として、オキサリプラチンによる中枢および背根神経節の神経炎症が関与しているといわれています。
患者数など病気の規模は?
2021年の米国でのCIPN発症者数は16万人程度と報告されています。また日本におけるCIPN発症人口は、2021年に約9万5,000人と予測されました。(出典:ASTUTE ANALYTICA)
現在ある治療法は?
痛みや感覚異常の症状を和らげることを期待して、抗炎症鎮痛剤、抗うつ薬、抗けいれん薬、漢方薬、ビタミン剤などが使われることがありますが、現時点では、科学的根拠を伴う治療方法は確立されていません。
MN-166への期待は?
CIPNの発症原因は未だ完全に解明されていませんが、抗がん剤が直接、神経に障害を引き起こすとみられています。末梢神経細胞の軸索を取り囲むシュワン細胞(神経膠細胞)はグリア細胞の一つで髄鞘(ミエリン)を形成し維持する働きがあります。シュワン細胞は神経損傷時に、軸索の再生、修復等にも大きな役割を担っています。抗がん薬がシュワン細胞へ直接的に障害を引き起こし、さらに神経損傷後の軸索再生過程においてシュワン細胞が制御する神経軸索再生を阻害すると考えられています。活性グリア細胞抑制作用を持つMN-166は、この治療に効果があると期待されます。
メディシノバの治験について
現在、2つ目の臨床治験がオーストラリアでシドニー大学を中心に多施設で実施中です。現在進行中の臨床治験「OXTOXスタディ」は、無作為化・プラセボ対照・二重盲検デザインのフェーズ2b治験です。オキサリプラチン化学療法を受ける転移性大腸癌患者を対象とし、合計 100人の患者登録を予定しています。MN-166またはプラセボの投薬は、オキサリプラチン化学療法の第1クールの2日前から開始し、化学療法中も継続します。MN-166による治療がオキサリプラチンに誘発される急性神経障害症状とCIPNを減少させるかを評価します。さらに、MN-166の治療により神経障害の副作用ためにオキサリプラチン用量減量や治療中止を減らせることが出来るかについても評価します。本治験はAustralasian Gastro-Intestinal Trials Group(AGITG)から研究助成金を受け、シドニー大学、AGITGとの共同で行われています。